肉体改造

 今日、僕は改造手術を受ける。
 僕が待ち望んだ日が遂に訪れたのだ!
 あぁ、期待に胸が膨らんでオーバーヒートしそうだ。
 この時のために、ろくに休みもとらずにフル稼働して働いてきたのだ。
 僕の様な二級市民に与えられる給料は身体を含めた仕事道具のメンテナンス代だけ。
 一級市民にとって僕らは奴隷であり、道具でしかない。
 なけなしの給料を貯めるために、僕は体が軋んでいても休まず働き続けた。
 同僚たちは、そんな僕を理解できず、壊れたものを見るような目で見つめていた。
 懸命に働く僕の姿を見て、一級市民は嘲り、蔑み、罵倒した。僕が逆らえない事を良いことに仕事の邪魔をしたり、時に暴力を受けた。
 たいていは無反応を貫いて、相手が満足するまでやり過ごしたけど、さすがに鉄パイプを持った三人組に囲まれた時はどうしようかと思った。
 だけど、目標金額を貯め、今日という日を迎えることが出来た今となっては、それすらも良い思い出だ。
 僕は生まれかわる。
 人間の科学技術はついに肉体そのものを変えることができる域にまで達している。
 もちろん莫大な費用を必要とするけど、おかけで僕は一級市民に生まれ変わることができる。
 道具ではなく、人間になれるのだ。
 僕は長年付き合ってきた自分の体を触る。酷使し続けたせいで、傷だらけのボロボロだ。
 要メンテナンスだな。苦笑いが漏れる。
 今までもってくれてありがとう。
 僕が自分の体にお別れをしていると、室内にドクターが入ってきた。
 ドクターの注意事項や確認事項、全てに僕はイエスを返す。
 ドクターが僕の首に見慣れないコードを差し込む。
 僕の意識はそこで途絶えた。
 
 再び、僕が目を覚ました時、僕は整備室の作業台ではなく、病院のベットに寝ていた。
 横を見ると、気を利かせてくれたのだろう。以前の僕の体が、バラバラにされ積み上げられていた。
 鋼鉄の体、特殊ワイヤーで造られた作業用アーム、地形に合わせて自在に形を変える脚部のキャタピラ。
 今の体にはない頑強なパーツを眺めていると、今まで感じたことの無い熱さが目からこみ上げてきて、頬を濡らした。
 涙だ。
 涙を流せる事が嬉しかった。
 僕は涙を拭って、ベットから起きる。
 二本足には慣れていないから少しよろけてしまう。
 肌寒さを感じるが、気温を感じられる体になった事を実感する。
 僕は病室の鏡に新しく生まれ変わった自分の姿を映す。
 目が二つに鼻と口、華奢だけど、触ると暖かい生身の体。
 「やった!遂にやったぞ!遂に!僕は人間になったんだ!」
 僕は一級市民、つまり人間になった。
 二級市民、つまりロボットは僕には逆らえない。
 僕は見舞い客用のパイプ椅子を掴んで、走り出す。
 医者の制止を振り切って、外に飛び出す。
 最初の獲物は決まっている。
 僕の気持ちを理解できず、故障品扱いした元同僚達。
 まずは奴らからスクラップにしてやる!
 


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