ワールドコード :3-30
 僕は時計を確認する。そろそろだろうか。

 こんなことをしたって問題を先送りにしているに過ぎない。そんなことはわかってる。

 悲劇は必ず訪れる。

 もしかしたらそれが多くの人が望み、選択した未来なのかもしれない。

 ならば、僕は何も言うまい。もとより僕には何もできない。僕はただの負け犬だ。路地裏のゴミを漁り生きながらえてる。

 部屋に毎日届けられる10紙の新聞のうち一つを手に取り読み直す。

 今、世間を騒がしているのはこの刑務所の不祥事と射概さんが起こしている殺人事件だ。

 だけど、僕はここ数日の殺人事件が射概さんの仕業でないことを知っている。

 僕が“教える”ことを選択し、射概さんが選択した未来の予知からすれば、射概さんは捕まっていて、黒澤が射概さんに見せかけて殺人事件を起こしてる。

 そして、今日の今頃、射概さんは黒澤のところに乗りこんで、射概さんは眉間に、黒澤は心臓に、お互いに銃弾を受け、二人とも死ぬ。

 射概さんの犠牲によって、黒澤組が力を持って新しい薬“バースデイ”をばら撒く未来が変えられる。

 そのために僕も動いてきた。みんなが“選択”を間違えないよう最大限の努力をしてきたつもりだ。

 僕は再度、時計を見る。

 そろそろだ。

 看守長には射概玄十郎の死がわかり次第、伝えに来るように言ってある。

 まだだろうか。

 僕の選択によって平穏な未来を少しでも伸ばさなければならないのに。

 予知より時間がかかってるみたいだ。どうしたんだろう?早く死ね。

 苛立ち始めた僕の耳に靴音が届く。

 やっときたか。そう思った僕に届けられたのは看守長からの報告ではなく嘲る様な声だった。

 「どうした?そんなにそわそわして。予知でも外れたか?」

 なんだこれは。こんなのどの選択肢にもなかった未来だ。

 どうしてあなたがここにいる?



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