ワールドコード :3-25
 「おらぁ、狩野ォ!出てこいやぁ!」

 黒澤組かと身構えたが、予想に反して聞き覚えのある声に狩野とミハエルは顔を見合わせる。

 「あぁ、なんだっけ?」
 「あれだよ塔堂さんの幼馴染のゆうちゃんとかいう」
 「あぁ、クズのリーダーか。てか、お前よく知ってんな。引き篭もりの癖に」
 「今や、家の中にいても何でもわかる時代だよ。それに、ビルの前で塔堂さんとしゃべってるのを見たことがある」
 「うわっ、お前ビルの入り口にまでカメラつけてんのかよ。もうなんか引き篭もり以上のなんかだよお前」

 ひそひそと話す二人だったが、ドアの向こうから聞こえる声は大きさを増していた。

 「ほら、早く行ってきなよ。この部屋まできたら嫌過ぎる。死ぬる」
 「そんぐらいで死ぬなよ。繊細すぎだろ。ったくめんどくせーな」

 諦めて重い腰をあげると、しぶしぶながら狩野はドアノブに手をかける。

 「つぇんめぇ!狩野ォ!よくもクロを危ない目に合わせやがったな。ぶっ殺す!」

 仮眠室から出た瞬間に狩野は胸倉をつかまれる。目の前には激昂した優介の顔がある。
 何故こういう人種は顔が近いのか。辟易した狩野はとりあえず、拳で黙らせようと肩に力を入れる。

 「ゆうちゃんのあほーーーっ!なに、アニキにケンカ売ってんの!めっ!」

 狩野が拳を叩き込む前に、一緒に来たのだろう黒江の振り下ろした拳によって優介の頭は沈んでいた。

 「ちょ、俺はお前がこいつのせいで危ない目に合ったからだな」
 「そんなことより、アニキ、アニキ、新情報」

 抗議の声をあげる優介を無視して黒江はピョンピョンと飛び跳ねる。
 ないがしろにされた優介が「えぇ……」と寂しそうに肩を落としていたが、狩野は目もくれずに黒江に続きを促す。

 「射概さんが、黒澤組に捕まってるって!」
 「あぁ?どういうことだ?」

 狩野の問いかけに黒江は嬉々として経緯を語り始める。

 「――で、そこに射概さんが捕まってるんだって、黒澤組の人が教えてくれました!」

 黒江の話に間違いはなさそうだった。黒澤組の組員というのもその特徴から黒澤の付き人の一人だろう。
 話を聞いた狩野は黒江の頭に手を乗せる。期待に目を輝かせる黒江を鼻で笑って狩野は、その頭をクシャクシャにした。

 「え、あわわ。あれ?なんか違う!なんか違くないですか?え、えぇ……」
 「何もすんなって言っただろうが」

 最後に、黒江の頭をぽんと叩いた途端、狩野は再び優介に胸倉を掴まれた。

 「あんたが、何もすんなって言ったところで、クロが大人しくしてるわけねぇだろ?あぁ?」
 「わかってるじゃねぇか」

 怒りを露にする優介の手を狩野は払う。

 「わかってるなら。危ないことに手を出さないように、ちゃんと見張っとけ」

 狩野はあっけにとられている優介の肩を叩くと、二人に背を向け、歩き出す。

 (予想外だが、予想以上だ)

 狩野は階段を下りながら手持ちのカードを確認する。
 あと少し。もうすぐ獲物の肉を裂き、骨を砕き、精神を破壊し、信念をへし折り――全てを台無しにしてやれる。


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